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数字で見る処理水の影響

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4月13日、処理水の海洋放出が決定されました。セシウムストロンチウムなどの放射性核種を基準値まで除去したうえで、トリチウムについては基準値まで希釈し排出するとのことです。

 

今回は、処理水が人体に与える影響について、数字を交えて見ていきたいと思います。


基本的な単位の説明

ベクレルBq:放射性物質から放射線が出る1秒あたりの回数のこと。SI単位系では/s。


グレイGy:放射線によって物体に与えられたエネルギーのこと。SI単位系ではJ/kg。


シーベルトSV:グレイに適切な係数をかけた数値。放射線が人体に与える影響の大きさを表す。SI単位系でJ/kg


一般大衆は1mSV/年が基準値

 

まず、放射線による人体への影響については大きく分けて2つの影響があります。

 

第一に、強い放射線を一度または数週間程度の短期間に受けた場合に現れる影響です。

 

放射線量がある一定の値(しきい値)を超えた場合に現れるのが特徴で、これは確定的影響と呼ばれます。


最小のしきい値白内障の50mSVと言われています。ちなみに、7000mSVで100%の人が死亡します。


ただ日常的には短期間に眼球に50mSVもの放射線を浴びる機会はありません。基本的に放射線に関わる人が注意するべき影響と言えるでしょう。

 

第二に、低い放射線での影響です。


広島や長崎で原爆の被害にあった方の継続的な調査によって、150mSV以上被爆した場合、放射線量と発がん確率とが比例することが明らかになっています。


ただし、150mSV以下では、放射線の発がん率への科学的・統計的な影響は明らかになっていません。これは、酒やタバコなどの生活習慣や人種的影響によって、統計的に明確な差が表れないということです。

 

しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)は150mSV以下でも放射線による影響があるものとして、各種の基準を定めています。


職業として放射線に関わる人については、5年間で100mSV以下かつどの1年も50mSVを超えないように規定しています。また、一般大衆については、1mSV/年という基準があります。

 

1mSV/年の例

 

1mSV/年という数字はたびたび使用されます。

 

例えば、福島の除染作業は、空間の放射線量率が0.23μSV/h以下となるように行われました。


東京の線量率はおおよそ0.04μSV/hです。


他の地域と比べて追加で被曝する放射線量が1mSV/h以下となるように計算された結果、0.23μSV/hという数字が決定されたのです。

 

また、ALPSが導入された当初の目的も、タンクからの放射線量を低下させ、敷地境界線における空間線量率を1mSV/年以下に抑えることでした。

 

ちなみに、日本人の平均被曝量は5.98mSV/年、世界平均は3.0mSV/hです。


自然放射線による被曝はそれぞれ2.1 mSV/年、2.4 mSV/年。


医療機器による被曝は、それぞれ3.87 mSV/年、0.6 mSV/年となっています。

 

医療による被曝は、負の影響よりも適切な診断などの正の影響の方が大きいとの考えから年間1mSVには含まれません。


ベクレルからシーベルトへの換算

 

さて、話を処理水の人体への影響に戻します。


経済産業省は6万Bq/L以下のトリチウムを排出する予定としています。

 

この量の「ベクレル」が人体に与える影響「シーベルト」はどの程度になるのでしょうか?


1mSV/年を超えてしまうのでしょうか?

 

ICRPによって、ベクレルからシーベルトへの換算を行う線量係数が公表されています。
これは、日本アイソトープ協会により日本語訳が行われています。


Publication68「作業者による放射性核種の摂取についての線量係数」によると、トリチウムを経口摂取した場合、1.8*10^(-11)SV/Bqとされています。

 

また、人間が1日に摂取する水分はおおよそ2.5Lとされています。


これは、飲料水と食品に含まれる水分などを合計した値です。

 

ここで、食品に含まれる水分と飲料水の両方にトリチウムが含まれるとして計算してみましょう。


6万Bq/Lの水を1日に2.5L飲んだ場合、人体への影響は次のようになります。

 

60000Bq/L*2.5L*1.8*10^(-11)SV/Bq=2.7*10^(-6)SV=2.7μSV

 

これは1日に受ける線量ではなく、このトリチウムから受ける影響ということに注意が必要です。


摂取したトリチウムの半量が人体から排出されるのにかかる時間(生物学的半減期)は平均10日程度と考えられています。


完全に排出されるまでの合計で2.7μSVの影響を受けるということです。

 

さて、365日飲み続けた場合の影響を求めるには、これを365倍するだけです。

 

2.7μSV*365=985μSV=0.985mSV

 

このようにほぼ1mSVになります。


というのも、そもそも6万Bq/Lは、1mSV/年以下となるように計算された結果だからです。

 

排出された直後の処理水を2.5L飲み続けたとしても人体への影響はICRPの基準を満たすと言えます。


実際には、人体は他の要因によっても放射線を受けているので、全くオススメはしません。


飲料水の基準

 

ちなみに、WHOは飲料水について様々な基準を定めています。

 

放射性物質については、飲料水による被曝が0.1mSV以下となるようガイダンスレベルを指定しています。


トリチウムについては、1万Bq/Lとされています。

 

トリチウムの値が処理水と比べて6分の1なのにも関わらず、放射線量が0.1mSV/年と10分の1になっているのは、1日に摂取する水分のうちどれだけがトリチウムに汚染されているかという想定が異なるためです。

 

では、処理水も6万Bq/Lから1万Bq/Lにまで希釈する必要があるのでしょうか?


処理水は、排出された後に莫大な量の海水によってさらに希釈されます。


また、一般的に飲料水に使用されるのは、海水が蒸発し、雨水となって河川に流れ込んだ後の水です。


浄水場の取水時には、間違いなく1万Bq/L以下に希釈されています。


6万Bq/Lから更に希釈する必要性はないでしょう。

 

なお、原子力規制委員会は福島近くの海水を採取し、トリチウムの測定を行っています。


2019年における結果は0.110Bq/Lでした。


また、処理水の排出後はモニタリングの強化を行う方針でもあり、IAEAからも専門家チームが派遣されます。


これらの測定によって、処理水が適切に希釈されているかどうかは明らかになるでしょう。


まとめ


日本人の平均被曝量は5.98mSV/年(自然放射線2.1 mSV/年、医療被曝3.87 mSV/年)。
一般大衆の被曝基準は1mSV/年以下。

 

6万Bq/Lの水を毎日2.5L飲むと1mSV/年となる。


海洋放出後はモニタリングが強化される